開演時間を10分ほど過ぎた。
暗転。
開演の喜びを表す拍手が自然と湧き上がる。
その中を切り裂くように、不穏なギターが音色を奏でる。
「後期衝動」
amazarashiの自己紹介代わりのポエトリーリーディング。
最近のライブでは「ワードプロセッサー」がその役割を担っていたが、敢えて昔の自己紹介曲を起用したところ、過去を顧みるライブなのが伺えた。
「良いからお前、さっさと歌えよ、一体全体、誰だお前は」
との歌詞に続き、恒例の……
「未来になれなかった全ての夜に! 青森から来ました、amazarashiです!」
歓声と拍手が沸き起こる。
会場のボルテージが一気に高まる。
息つく間もなく、一定のリズムが刻まれる。
「リビングデッド」
前回のコンセプトライブ「新言語秩序」のテーマソング。
まさか今回のツアーでも歌われるとは思わなかった。
「くそくらえ」
切れた音の間から鋭く刺し込むその一言にドキッとする。
彼らの覚悟が垣間見える。
「死に切れなかった夜をくべろ」
今回のツアーのテーマのひとつが「夜」だ。
「リビングデッド」も"新言語秩序の歌"ではなく"amazarashiの歌"なんだと改めて認識させられた。
続く「ヒーロー」。
ベストアルバム「メッセージボトル」に収録され、当時のツアーでも盛り上がりを見せたこの楽曲が今回も前衛を飾る。
疾走感のある楽曲で会場が盛り上がったところで、再び暗転。
MCが挟まれる。
「今日に至るまでいろいろな夜があったはずです。いろいろでは済まされない一つひとつをつまびらかにするために歌いに来ました」
「夜の向こうに何があるのか、スターライト」
普段では締めくくりとして歌われる事の多い「スターライト」。
アマチュア時代から歌い継がれ、同タイトルを冠す企画ライブが披露された事もある。
そんな楽曲をこの日は、序盤からブチかましてくる。
「夜の向こうに答えはあるのか」
「いつか全てが上手くいくなら、涙は通り過ぎる駅だ」
今回のライブのテーマソングと言って良いほど、歌詞の内容とライブタイトルが重なった。
序盤からエンジン全開なところに嬉しさを覚えるとともに、いったいフィナーレはどうなってしまうのか、期待が胸を打つ。
続く「月曜日」や「たられば」はかけがえのない人との繋がりを歌い上げる。
「月曜日」は漫画「月曜日の友達」とのコラボ楽曲。
夜中の学校で綴られた、とある男女の友情が描かれる。
「たられば」は映画「青の帰り道」に起用され、ベストアルバムツアーのテーマソングにもなった楽曲。
歌詞の中には、入院中の彼女を見守る秋田本人の目線が描かれる。
人との繋がりの大切さが力強く紡がれ、会場を暖かい空気が包む。
しかし、ここからライブの雰囲気が徐々に変化していく。
新曲「さよならごっこ」「それを言葉という」「アイザック」、その曲間に彼らの始まりの歌である「光、再考」も力強く演奏される。
「僕らの真っ赤な悲しみが 暮れる 暮れる そして夜が来る」
とアニメ「どろろ」の重要キャラクターであるどろろから主人公の百鬼丸へ向けた"さよなら"と別れを繰り返し歌い上げる楽曲「さよならごっこ」。
最後には
「僕らの真っ赤な嘘だけが 濡れる 濡れる そして朝が来る」
と泣き明かした夜が明けて、また朝がやってくる。
続く楽曲は彼らの十八番、ポエトリーリーディング楽曲。
言葉の弾丸。
「それを言葉という」
先日、ミュージックビデオが解禁され、リリックスピーカーに言葉が次々と映されていく様はまさにamazarashiのポエトリーリーディングを代表しているかのようだった。
「明日がある以上終わりじゃない 朝日が愚鈍に射し込む車内」
「死に損なった朝が眩しい 出掛けさせられてる毎日に」
さよならごっこの歌詞に続くように、なんとか生きながらえた朝を歌う。
ここで挟まれたMCでは
「0から1になるために音楽と言葉を用いた」
「地元の仲間の支えによって1から10になった」
「10から100になる頃には気づけば理解者がいた」
と彼らのバンドの成り立ちを垣間見せられた。
「光、再考」については言うまでもない。
彼らの始まりの楽曲であり、彼らのどん底とそこから這い上がる希望を描いた楽曲だ。
「綺麗な星座の下で 彼女とキスをして 消えたのは 思い出と自殺願望 」
「朝が来るたび陰鬱とした気持ちで それでも青い空が好きなんだ」
上手くいかない日々や、そのもどかしい感情を、夜と朝の情景に託す。
否応もなく、繰り返し続ける毎日に、挫けそうになっても一筋の光を追い求めて、最後には
「もし生まれ変わったらなんて 二度と言わないで」
と唯一無二の自身を奮い立たせる。
本当に力強い楽曲だ。
続くポエトリー「アイザック」でも、同様に
「希望もいつか消える だがそれは息絶える時だ」
と、言いかえれば、死ぬまで希望は消えないんだという覚悟を歌いあげた。
その後は、ここ最近のライブで聴かない方が珍しい定番の二曲が続く。
東京喰種√Aのエンディングテーマとなった「季節は次々死んでいく」。
PlayStation4のRPGゲームNieR:Automataとのコラボで生まれた「命にふさわしい」。
どちらも鬱屈とした世界観の中、一筋の希望
を必死にもがいて掴もうとする楽曲だ。
「最低な日々が 最悪な夢が 始まりだったと思えば 随分遠くだ」
「全部を無駄にした日から 僕は虎視眈々と描いてた 全部が報われる朝を」
「酩酊の夜明けこそ 命にふさわしい 」
鬱屈に抗うような、叫びに似た歌声と音楽に圧倒されるばかりだった。
激しく、胸を叩きつけるような楽曲が続いたが、ここで短めのMCが入る。
「若くして死んだ彼は僕にとって青春の象徴です」
ピアノがメロディを紡ぎ出す。
キーボードの豊川さんの指使いは直前の激しい楽曲達とは一転して、ひときわ優しく音を奏でた。
「ひろ」
19歳で亡くなった、昔のバンドメンバーに向けた手紙の体で自らの現状を省みる歌。
以前、ベストアルバムのライブツアーでも歌われた楽曲ではあるが、その時よりも一層、優しく歌われているように感じた。
彼らが敢えて今回のライブでこの楽曲を扱うのも、彼らの今を形作るにあたって「ひろ」はそれだけ大きな存在であり、今だからこそ彼の存在を思い返す必要があるんだと言い聞かせているように見えた。
「誰も歩かない道を選んだ僕らだから 人の言う事に耳を貸す暇はないよな」
個人的にここのフレーズでいつも泣いてしまう。
どんなに彼らは孤独だったんだろうか。
その孤独に寄り添ってくれる存在が、目の前からいなくなったら、自分はどうなってしまうのだろうか。
それでも、彼らは歌う事を辞められなかった。
諦めきれなかった。
それでも歌い続けるんだっていう覚悟は最後のフレーズに託されていた。
「僕は歌うよ 変わらずに19歳のまま」
一斉に大きな拍手が鳴った。
曲が終わってから自分が大号泣していることに気がついた。
この曲は、ずるいなあ。
ほっと一息ついたのも束の間。
次の楽曲で、また不穏な電子音が流れ出す。
「空洞空洞」
推測でしかないが、夢を見て上京して音楽活動をしていた彼らが、たったひとりのかけがえのない仲間を失ったがために解散、青森に帰り、音楽を辞めようとした時の心境がこの楽曲には込められていたんじゃないだろうか。
「別れた人はもう忘れた でも忘れたこと忘れない 亡霊と僕ら生きてる つまりは憑りつかれてたんだよ」
道を違えた仲間の亡霊なのか、あの日諦めた自分の亡霊なのか、何にしろ彼は「ひろ」を失ってから空白の苦しい時間を過ごしたのは間違いないだろう。
「夢、希望も恨みつらみも 『君に会いたい』も『くたばれ』も詰め込んだ火炎瓶で 世界ざまあみろ」
彼はこの楽曲には意味がないと言っていたが、当てつけようのない空洞に苛まれた怒りや苛立ちを詰め込んだのではないだろうか。
演奏を終えた頃には暗く沈んだ空間に少し不安を覚えた。その瞬間。
「虚実を切り裂いて」
会場の"色"が変わった。
「蒼天を仰いで」
アニメ「僕のヒーローアカデミア」のオープニングにも扱われた「空に歌えば」。
先程までのどんよりとした暗がりを一瞬で吹き飛ばした。
この流れもずるい。
この楽曲の対の詩には
「今や雨は上がったが嵐は何度でも訪れる 長かったここまでの道程で僕らが学んだ事だ だから雨の日に口ずさむ歌を携えろ」
と記されている。
Cメロのポエトリーリーディング部分では
「掴んだものはすぐにすり抜けた 信じたものは呆気なく過ぎ去った それでも、それらが残していった、この温みだけで この人生は生きるに値する」
これまでの苦悩もすべて受け止めた上で、人生は生きるに値すると言い切っているのだ。
彼らの背景を知っているからこそ響く楽曲なんだなあとしみじみした。
「空洞空洞」と「空に歌えば」
雰囲気こそ対極にある楽曲だが、アップテンポな曲が続いた後に披露された楽曲は、
「ライフイズビューティフル」
こちらもリリックビデオにて映像演出がされており、これまた優しく会場を包み込むような楽曲で、「ひろ」とは一味違う温かみを感じさせた。
「わいは今も歌っているんだ 暗い歌ばかり歌いやがってと人は言うが ぜってぇまけねぇって 気持ちだけで 今まで ここまで やってきたんだ」
「夢を諦めた人 捨てた人 叶えられず死んだ人 覚えているか?」
「あっけなく命や夢が消える星で ありふれた良くある悲しい話 そんなもんに飽きもせず泣き笑い」
「だけど後悔なんてしてやるものか」
先程の「ひろ」や「光、再考」の歌詞を踏襲するかのように楽曲の関連性、必然性を感じさせる。
そして
「けどな これだけは絶対言える 俺らの夜明けはもうすぐそこだ」
「見ろよもう朝日が昇ってきた」
「人生は美しい」
今回のライブツアーのタイトルでもある、夜について歌い上げる。
今回のライブツアーの為に用意されたかのような一曲だった。
MCでは
「以前東京でバンドをやっていた頃、この会場正面の通りで路上ライブやってたんですが、今もいるんですかね、ミュージシャン。わいが言うのもおかしいですけど、観ていってください」
と穏やかに話していた。
ラスト二曲。
いよいよ大詰めとなったライブツアー。
披露されたのは、前衛を飾った「リビングデッド」同様に新言語秩序で披露され、トリを飾った「独白」。
CD音源では(検閲済み)とされ、ノイズで潰されており、敢えてその楽曲の全貌が聴こえない処理がされており、専用のアプリによってのみその楽曲が聴けるという、まさに新言語秩序の楽曲というイメージが強い楽曲だった。
しかし、今回披露された事で、この楽曲も新言語秩序の楽曲ではなく、amazarashiの楽曲なんだと思い直さざるを得なかった。
いや、新言語秩序もamazarashiの一部なんだと考え直すに至った。
「私が私を語るほどに 私から遠く離れてしまうのは何故でしょうか?」
このフレーズから始まるこの楽曲には、彼が彼自身と幾つもの夜を越えて対話してきた背景がうかがえる。
収録された音源では省かれている部分も、ライブでは臆する事なく歌い上げる姿に惚れ惚れとする。
「過去の痛みが全て報われたわけじゃない」
「かつての絶望が残す死ぬまで消えない染み
それが綺麗な思い出まで侵食して汚すから
思い出も言葉も消えてしまえばいいと思った」
言いたくても言えなかった言葉。
「一行では無理でも十万行ならどうか
一日では無理でも十年を経たならどうか」
奪われた言葉、止むに止まれぬ言葉。
色々では済まされないその一言一言をつまびらかにしていく。
彼らの全力が注ぎ込まれる。
「言葉を取り戻せ」
そう、叫び歌い上げて、続けざまに
「あの夜、言いたくても言えなかった言葉を歌います、未来になれなかったあの夜に!」
新曲を披露。
詩だけはファンサイトで先に公開されていたが、楽曲としては初めてだ。
「なじられたなら怒っていいよ 一人で泣けば誰にもバレないよ そんな夜達に『ほら見たろ?』って無駄じゃなかったと抱きしめたいよ」
星の煌めきのようなスクリーンに歌詞が投影される。
「『前向きに生きて』じゃ頷けない誰かさんの為 夢追い人とは ともすれば社会の孤児だ」
今回のライブで1番優しく、1番孤独で、1番力強さに溢れた楽曲だった。
「孤独な夜の断崖に立って 飛び降りる理由あと一つだけ そんな夜達に『くそくらえ』って ただ誰かに叫んで欲しかった」
彼が言って欲しかった言葉を、今は彼が歌っている。
きっとこの会場にいる多くの人が必要とした言葉だろう。
俺も紛れもなく、この言葉達に救われてきた。
「未来になれなかった あの夜に」
最後まで歌い終えたところで、
「言いたいことは言うべきです、どんな状況においても。だから最後に今言うべき言葉を……ありがとうございました!」
鳴り止まない拍手を背に、彼らはステージから去っていった。
amazarashi ライブツアー
未来になれなかった全ての夜に
2019.06.21@NHKホール
セットリスト
1. 後期衝動
2. リビングデッド
3. ヒーロー
4. スターライト
5. 月曜日
6. たられば
7. さよならごっこ
8. それを言葉という
9. 光、再考
10. アイザック
11. 季節は次々死んでいく
12. 命にふさわしい
13. ひろ
14. 空洞空洞
15. 空に歌えば
16. ライフイズビューティフル
17. 独白
18. 未来になれなかったあの夜に
本日の空模様は、、、。
些細で、たわいもない。 そんな枝葉末節の機微に揺さぶられる 日々の空模様を綴ります。 大したことは書けません。 大した人間じゃないから。 くだらない事は書けます。 くだらない人間だから。
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