俺は、静かな夜が欲しかった。
喧騒で目が覚めた。
下の階からだ。
今となってはいつものことだ。
いつからなのかは忘れてしまった。
今夜はやけに喉が乾いている。
一杯だけ。
寝床から抜け出す。
階段をひとつ降りる度に罵声が大きくなる。
言葉の1つ1つが鮮明になってくる。
あんたの浮気がどうとか、
いくら貢いだとか、
前妻との間に生まれた娘が恋しいかとか、
借金まみれだとか、
こんな生活費じゃ生きていけないだとか、
早く新しい仕事を見つけろとか、
金が何より一番大事だとか、
全部投げ出して帰国してやるとか、
辛いとか、
苦しいとか、
子供なんか作らなきゃよかったとか。
気が付いた時には、一歩足が前に出ていた。
それまでの罵声が嘘かのようにピタッと止んだ。
構わずキッチンへまっすぐ向かう。
グラスを取る。
冷蔵庫を開ける。
お茶を注ぐ。
ゴクゴクと飲み干す。
お茶を元の場所に戻す。
冷蔵庫をしめる。
グラスを洗う。
そして上の階へ戻る。
誰とも目が合う事はなかった。
罵声だけが消え去っていた。
自分の部屋の前まで戻ってきた。
喧騒が止んだからか、隣の部屋からすすり泣く声が聞こえた。
「私のせいで二人は結ばれてしまったの、ごめんね」
気配り上手で不器用に笑う彼女は、
「私、要らない子なのかな」
そう言って啜り泣いていた。
彼女が長女であって、長女でないことを知ったのは、思い返せばあの夜だ。
その日から彼らの態度はあからさまに変わっていった。
躊躇なく物を投げ、
刃物を向け、
家を追い出し、
家を放り出し、
母からは罵倒、
父からは無視、
挙句には、たった一要素を持って人としても扱われなくなった。
それでも俺は負けたくなかった。
あれから何日が経っただろう。
家族との縁を切ってから、夜は随分静かになったもんだ。
そう、俺はこんな静かな夜が欲しかったんだ。
勝ち取ったのだ。
でもどこか寂しい気持ちがするのは何故だろう。
「情なんてクソほどの役にも立たねえのに」
遠慮がちな舌打ちが静かな部屋に響いて、
やがて歯軋りが小さく狭い部屋を満たし始めた。
あの日の未来になった静かな夜にて。
自分が幸せなのか、不幸せなのか。
今の自分は何の迷いなく、答えを出せる事に気が付いた。
それは忘れてはいけない過去と、
それに向き合ってきた自負と、
その延長に自分がいることを自覚しているからだ。
でもその下に
犠牲となった出来事や
失ってしまった代償があることを
俺は忘れちゃいけない。
正確には忘れられないんだと思うけど。
この歯軋りがその証拠だ。
後悔はしていないが、
後ろめたさはある。
そんな23歳を迎えて、俺もまだまだだなって。
まだまだ伸び代があるんだなって。
そう思う事にした。
もっと大きく飛躍する一年にしよう。
本日の空模様は、、、。
些細で、たわいもない。 そんな枝葉末節の機微に揺さぶられる 日々の空模様を綴ります。 大したことは書けません。 大した人間じゃないから。 くだらない事は書けます。 くだらない人間だから。
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